こんにちは今木商事(イマキショウジ@imakisyoji)です。
前にも書きましたが、この記事がなぜか最近とてもよく読まれています。
この記事だけでPVを稼いでる感じです。新規の方が多いようですね。
さて読者の中でネーム熱が高まっているようですので(?)以前やるといってやってなかった「輪廻転餅」の制作裏話をやってみようと思います。マンガ家志望者のみなさんの参考になれば幸いです。
「輪廻転餅」の作り方とは?
「輪廻転餅」とは電子書籍まとめサイト【きんどるどうでしょう】の管理人きんどうさんのお餅マンガ企画で制作された私のオリジナルマンガ作品です。くわしくはこちらをどうぞ。
【注意】これから「輪廻転餅」の内容について語っていくので未読の方はご注意ください。できたらお買い上げいただき、記事とあわせて読んでいただけたらうれしいです。
あるイメージ
きんどうさんからの「テーマはお餅」というのを最初に聞いたとき、コミカライズ歴が長くたいていの物はマンガにできるぜ!と自負する私でもちょっと困りました。
お餅を頭に浮かべてもなかなかイメージがふくらまなかったからです(餅なのに)。
しかし私にはここ何年か心に浮かぶ一つの絵がありました。
それは恋人同士がいろいろ生まれ変わりをくり返したあげく、一方が犬に、一方がネコになり陽だまりの中でくっついて幸せそうにしているという構図です。
近年仏教に興味が出てきて生まれ変わりというものをちょっと信じるようになっていたのと、以前歌舞伎のムック本で死んで別人に生まれ変わった恋人同士の話を気に入っていたので出てきたイメージなのかもしれません。これを少し変えればうまく作品にできそうだと思いました。
うまくできそうだという直感
ちなみにこの「うまくできそうだ」という判断ですが、けっきょくこれは直感的なもので他人には伝えられないものなのです。しかしネームがうまくできない人はこの辺の直感がいいようにひらめかない人なのかなあと思います。
ずっと昔読んだ筒井康隆さんの「着想の技術」でもオムライスを最初に作った人を想定して、どうしてそれを思いついたのか?と聞かれても当人にはうまく説明できないだろうということが書かれていたと記憶しています。
ここのところもう少し論理的にご説明できれば良いのですが、今はまだ私にはできませんので先に進みます。
お餅に生まれ変わる話に
とにかく先ほどの犬とネコのイメージを利用しようと思い、では一方がお餅になって人間に会いに行く話にしようかと思いました。お餅は動けないのですが、そこを無理して動こうとするのがおもしろさにつながるのでは…と考えたからです。
しかしさすがにそれはやはりむずかしいなと思っていたところ、ちょうどこのお餅マンガ企画作品の発売がお正月時期であることに気づき、「お餅→鏡餅」「鏡餅にはミカンがのってる」(正確にはミカンでないですが)「お餅とミカンに生まれ変わるお話にすれば良い!」と思いつきました。そして最初に書いたプロットがこれです。
輪廻転餅(りんねてんぺい)
恋人同士のマサとミヨは幸せな日々を過ごしていた。ところが大きな事故があり2人はあっけなく死んでしまう。輪廻転生のはざまで気がついたマサは生まれ変わりを繰り返しミヨを必死に探し求めるが見つからない。最後はミカンになってしまい動くこともできなくなったマサはさすがにあきらめるが、お正月の飾りに使われることになったマサの下には鏡もちになったミヨがほほえんでいた。
ご覧になっておわかりのとおり最初のプロットでは男の方が動き回り、最後ミカンになってお餅になった女性と再会するというお話だったんですね。
起承転結構成でいうと
以前こんな記事を書きました。
起承転結(というか最後の転換)の構成を考えて書けばお話作りが楽だよという記事ですが、「輪廻転餅」ではどうでしょうか。
起・・・恋人同士が死んでしまう
承・・・一方が一方を探し求める
転・・・ミカンになってしまいもう探せない
結・・・相手が鏡餅になっていて再会できる
私としては「転」でミカンになってしまったらもう自分で動くこともできないので「もう絶望だ!」という主人公の嘆きに読者が共感してくれるのではないかという期待がありました(ちょっと弱かったかもしれませんが)。
説得力のロジック
その後相手に再会できるわけですが、ここで読者に納得してもらうためにある程度のロジックが必要になります。
たとえば相手が人間や犬やネコに転生していてミカンの主人公に「まったくの偶然」で再会できたのでは「はあ、そうですか」という感じで説得力が足りません。
しかし鏡餅といえばミカンがのっているのが定番ですので、最後に動けなくなったミカンが「くっつく」相手としては「なるほど!」と思わせることができます。
とはいえ感想を書かれた方もいた通り、そもそも生命がお餅に転生するか?というのは苦しいところではあります。しかし弁明的にいわせてもらえば、このちょっと苦しいところも込みでのおもしろさというのが私の考えるマンガの魅力だと考えています。
最初のラフ設定
最初男主人公だったのになぜ女の子主人公に変えたのかというと、奥さんが買ってきたマンガの雰囲気がとても良く、それに影響されたからです。
なぜかネコ頭(? )の彼氏と女の子のカワイイお話で「う~んやっぱり女の子が動き回る方が良いかな~」と考えなおし、あのようになりました。日当貼先生ありがとうございます!
余談ですが、思い返してみると私のマンガって女の子が活躍するのが多いんですよね
(今度発売される「ビーストウォーズメタルス」もエアラザーがけっこうがんばるお話が多い)。
一応自分は少年マンガ家だと思うんですが、あまり男の子のパワーを信じてないのかもしれない。
ともかく最初に描いたラフがこれです。ほぼ完成品と変わりませんね。
タイトルと名前を考えたラフ。これもほとんど迷わなかった気がします。
タイトルは「輪廻転生」をもじって、最終的に「餅」になるので「輪廻転餅」。
男の方は最後「お餅」になるので「もち」→「もちづき」→「望月」と、タイトルの後半「転餅」の音をとって「てんぺい」→「天平」。
女の方は最後「ミカン」になるので「ミカン」→「ミキ」→「三木」と、タイトルの前半「輪廻」の「りん」だけとって「倫子」。
リンコの名はずっと以前に仏教テーマで描いた「リンコ・パンタ・ライ」でも主人公に使われていたのでそれを再利用したというのもあります。
小プロット
ではいよいよ私の小プロットをご紹介していきましょう。プロットといっても人によってかなりニュアンスが違うのですが、私の場合先ほどのような大まかなお話を決めたらそれをさらにページ数の割り振りをして、小さい紙にまとめるのを小プロットと呼んでいます。
割り振り
まず1枚の紙を16等分してページ数を書き、そこに大体のお話の内容を書き入れていきます。
できそこないの予定表みたいですがこれで一応最初から最後まで大まかに見通すことができます。
次に小さい紙にページ数をふってさらにくわしい内容を記していきます。
便宜上2ページ並べて表示します。
1、2ページ目
字がきたないですねスイマセン。しかし私の字はきたないが読みやすいという定評があります(自慢にならない)。
3、4ページ目
左のラクガキはたぶん輪廻じいの顔を考えていたんじゃないかと思います。
大体完成品通りの内容ですね。ただ大きく違うのが死んですぐネコになっていることです。
これは死んで天界に行ってからさらに転生するという設定を考えたんですが、そうするとその説明をしなくてはならず、ページも食うし、まだるっこしいかなと思ってすぐに転生してしまったという風に変えて書いたのです。しかし…。(続く)
5、6ページ目
しかしそんな風に自然に生まれ変わってしまうと、主人公倫子の意志が読者に示せなくなります。
最後に輪廻じいが語っている通り「愛する2人はいずれ必ずまた出会う」というのがこのお話の結論ですが、輪廻じいの助言も聞かずに転生をくり返してジタバタするところが倫子の主人公たる部分なので、この後のネームでは最初の案にもどしたのでした。
7、8ページ目
スズメになったときくちばし攻撃をして輪廻じいのタブレットが壊れるというギャグも考えていました。
9、10ページ目
先ほどいった通りこのプロット案だと天界が出てこないので、その分動物になったときの行動のエピソードが多く書かれています。
ゴキブリになった倫子もていねいに描写されていますね。
11、12ページ目
さらに転生をくり返す場面ですが、この辺りでアイデアがふくらんできて、そうだもう1回人間になって一生過ごすのもおもしろいなとか思いついたのですが、ページが足りませんでした。
というか元々このお話のアイデアは16ページでは少なすぎた…と後で気づきました。
20年やっててこんなもんですから新人のみなさんも気楽にやってください。
13、14ページ目
この部分はほぼ完成品と同じですね。
15、16ページ目
ここで倫子と再会した天平が「いつまでも待つよ。そういったでしょ」というセリフがあります。
ここでこのセリフを効果的にするために最初の2ページ目に「帰るわけないいつまでも待つよ」を「さりげなく入れる」と注釈が入っていたわけですね。
最後に出てくる親子はあえてほとんど姿を見せていません。最後の抱き合っている倫子と天平のイメージが大切なのでよけいな顔は見せない方が良いという判断からです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
実はネームも公開しようとおもっていたのですが、プロットだけでとても長くなってしまったのでとりあえずプロット編ということでまとめました。いずれネーム編もやるかもしれません。
さっきも書いた通りこのお話は本来もっともっと長いストーリーで語るべきだったと思います。
特に新人の人に多いのですがたくさん書きたいことがあってページがいくらあっても足りないという人がいます。しかし私は昔からまったく逆で、長いお話が基本的にできない体質なのです。というのも少し書き続けているとすぐこの前の記事で書いた「私の内部の読み手」が退屈してるんじゃないかと気になってしまい、短くまとめようとしてしまうからです。
そんなわけでこの「輪廻転餅」も何だか骨組みだけのお話になってしまいました。
とはいえ大体最初のイメージ通りに仕上がったし、けっこう気に入っている作品です。良かったら読んでみてください。